| しばらくして午後の打設が始まった. 其のころになってようやく工事主任が帰ってきた。顔にコンクリートのハネがいくつも 突いている。ヘルメットを脱いだ頭は汗だくで見るも気の毒。なんだか、涼しい時に や寒いときには、そういう事を感じずに図面を書いている私などは、なんだか申し訳 ない気がする。 あっという間に食事を済ませて、又、現場へと出かけていく。入れ替わりに係員の 二人が帰ってきた。交代で食事をするのである。工事長が、ねぎらいの言葉をかけ る。
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コンクリートの出荷ミスで、ミキサー車が出るのが遅れて10程度、到着待ちになっ た。また静かになって、職人達も一息入れる丁度良い間合いになった。結局、15分 弱でミキサー車が到着。打設続行である。こういうこともよくあることだ。打設に間隔 をあけたり、ミキサー車が長く練りすぎるのも品質が落ちるので、注意が必要だ。工 場から、現場まで長い道のりで交通渋滞などの影響で打つのが遅れるのもいけな い。出荷時間とコンクリートの打設時間は、幾ら以内ときめられている。
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一時、ぱらっと時雨れた。打ったばかりのコンクリートの上に落ちると、月面のよう なアバタが出来てしまうだけではなく、コンクリートの品質自体も落ちる事がある。 数分と続かなかったからいいようなものの、皆がヒヤッとする瞬間である。やれやれ である。もう少しだ。
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何とか夕方4時半に打設終了。 みんな、セメントで汚れ、疲れた顔で休憩室までひきあげてくる。そして、 少し休憩の後、ポンプ車を片付け、あたりを清掃して、ポンプ車は引き上げていく。 事務所に、戻った主任に本日の作業の伝票にサインを貰って、 「それじゃ。お先に。」と言って出て行った.。 各業者とも、仕事のサインを貰う。その伝票が、請求書の根拠となるのだ。 一番最後に、ガードマンがやってくる。一番早く来て、一番遅くまでいる。割の合わな いしごとだ。 これで、コンクリートうちが終了したわけではない。左官が、これから、9時ころま で、押さえの仕事が残っている。
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この時に雨に合うと、コンクリートの打設が不成功と言ってもいいくらいに 重要である。 コンクリートを押さえている時に雨に合うと、痘痕は出来るし、セメントの重要な成 分も流れ出し、品質が著しく落ちからだ。雨に遭ったスラブのコンクリートは、 玄人にはすぐに知れる。表面に痘痕だけでなく、粉っぽい表面になり、まともなもの のきれいなグレーの色をしていないのだ。
8時50分。ようやく、現場事務所に左官の数人が上がってきた。 「押さえ、おわったよ。」 「おお、ご苦労さん。雨にあわなかったか?」 「ちょっと、落ちたが、一回目の押さえのときだったから、助かった。」 「ほう、それは良かった」 「休憩したら、早く帰って、休んでくれ。」 「おー。じゃあ」
主任と、係員一人だけが残っている事務所を左官が出て行く。 工事長は、7時ころにかえった。 「やれやれ。もったな。」 「もちましたね。雨」 「良かった。しかし、ひやひやものだったなあ。」 「俺たち、一回り、見回って帰るか?」 こうして、2人は、投降器の光の中に消えていった。 一時間ほどで帰ってきた二人は、 「明日は、墨田しだ。」 「そうですね。」 「着替えて帰ろう。」 「ハイ。」 こうして、長いコンクリート打ちの一日がようやくおわった。
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