| モルタルの使用例は、ごく身近に見かけると、冒頭にも書きました。それは私たちの住まいの外壁においてです。1980年代までの日本の一般住宅の外壁に多く使われ、築25年以上の一般建築物によく見られます。
それまでは、土塗り壁が主流でした。土塗り壁は、お寺や神社、あるいは古い町並みの保存地区、あるいは昔ながらの田舎の集落などに今なお存在します。
土塗り壁は、文字通り土を塗って壁を構成しています。その土を支える下地が、竹小舞です。土塗り壁は土が再利用可能でエコですが、手間と重量が大きく全くと言っていいほど現在では使用されません。重量が大きいと、地震に対して不利に働きます。
どんなものにも長所と短所はあります。また、長所が短所であることもあります。そこでこのページでは、モルタル塗りの長所を、次のページでは短所を取り上げます。実は、モルタルの長所はそれほど多くはありません。短所の方がずっと多いといえます。
それなのに、モルタル外壁が用いられてきたし、今も用いられているのは、何故でしょうか。それは、それに代わる有力なものが殆どないからです。ただ一つ、サイディングが有力ということになります。
モルタル外壁の長所 | @ | サイディングのように継ぎ目が出ない。このため塗壁の正規の工法として確立している。 | A | ガルバリウム鋼板のように熱くならない | B | コーキングによるジョイントがない | 出典:ウィキペディア
では、上記の表の「モルタル外壁の長所」について、詳しく見ていきましょう。
@のサイディングでは、サイディングの長さが、車での建設現場に搬入することになりますから、運搬に可能な加工の長さにしなければならない制約があります。
それによってどうしても継目を設ける必要があります。つまりサイディングを横張にするなら、縦目地を設けることになります。縦貼りならその逆です。
一方モルタルは、そういう制約はありません。最新のモルタル塗り外壁でも目地を設けているものはほとんど見かけません。下塗りで十分ひび割れを発生させているからでしょう。しかしひび割れしやすい材料ですので、要所にひび割れ防止誘発目地を設けることが適切です。設けた場合は、これがつなぎ目といえます。
ひび割れ防止誘発目地は、モルタルが自然と出来るひび割れという宿命を利用して、事前に計画的に目地を設けて、そこにひび割れを起こさせようとする行為です。それによって、思ってもいない場所や起こさせたくない場所に起こらないようにします。このことがモルタル塗り外壁で一番大事なことです。
■ モルタル外壁の長所 A 鋼板のように熱くならない |
Aのガルバニウム鋼板は早く言えば、耐候性のある鋼板で工場などの外壁、あるいは工場の波型をした屋根によく見かけます。鋼板は炎天下では、触るとやけどするほど熱せられます。特にガルバニウムに限らず鉄板張りの外壁であれば同じように熱くなります。
モルタルも熱くはなりますが、鉄板ほどではありません。しかし、それは直射日光の当たる部分での話で、建物内部にあっては、サイディングの方が優れています。これはサイディングの厚みの部分には残熱効果のある材料が挟まれていることによるものです。
勿論、住宅のモルタル外壁の内側には、断熱材を入れるのが一般的で、サイディングと同じような効果は室内側で出すことが出来ます。
下記に現在の住宅の外壁仕上げの主流であるサイディングとモルタル仕上の熱伝導率と比較値を載せました。熱伝度率では、サイディングの方が、モルタル塗りより良好であるとわかります。
主な外壁の熱伝導率と比較値 | 外壁材 | 形状イメージ | 熱伝度率 | 比較値 | 金属系サイディング 厚さ18ミリ | | 0.022 | 1 | 窯業系サイディング 厚さ16ミリ | | 0.13 | 5.0 | モルタル塗り 厚さ20ミリ | | 1.1 | 50 |
画像出典:上二つは旭トステム外装(株) 一番下日本左官業協同組合連合会
Bのコーキングによるジョイントがない、というのはその通りですが、@で説明した通り、材料に長さの制約がないため、要らぬところや、場違いの箇所にジョイントが来ることはありません。窓のサッシの中心に来ているサイディングのジョイント目地なら見栄えもよいのですが、材料を有効に活用するならそのようなところに意図的に設けることはまずあり得ません。
外から見て、もう少し調整が利かない物かなと思うことはよくあります。
------------------------------
さて、最近徐々に人気が復活してきた外壁モルタル塗り仕上げですが、その上の塗装に関していろいろな種類と塗装の仕方があります。吹き付けのような塗装は、塗装工の仕事ですが、同じ塗装といっても薄く塗る仕上げは、左官の仕事です。見積もりも全然変わってきます。下図は左官による仕上げとなります。今人気の塗り仕上げを紹介します。
最近は、サイディングと呼ばれる工場で生産された板状の外壁材が人気で、外壁材を選ぶ人の4割弱を占めています。モルタルは3割弱で二番手になりましたが、人気がまた出てきました。その理由は、モルタル塗りの後に仕上げとしての、塗装の多様バリエーションがあげられます。
左官(モルタルを外壁に塗るなどの仕事をする人)がこの塗装を手仕事でおこないます。その技術によって風合いを出すことが出来ることが人気の理由のようです。
例えば下の写真はジョリパットと呼ばれる、外壁仕上げの塗装材です。この例だけでも、変化に富んだ仕上げを作ることが出来ることが、外壁モルタルの仕上げが人気が出てきた要因だとわかってもらえる思います。しかも、メーカも複数あり、それぞれがジョリパット同等品で違ったパターンを作り出しており、このほかにも何十種類もあり、選択に困るほどです。
| | | | | れん波 | さざ波 | 水仙 | りんどう | レイヤーストン | | | | | | 縄文 | ファアタジブロック | 校倉(あぜくら) | クラディウス | ラディーチェ |
出典:アイカ工業 ジョリパット(名称とも)
上で取り上げたモルタル塗り外壁の仕上げとしての塗装は左官仕事でした。しかし、これまで1980年代の一世を風靡していたのは、塗装工によるモルタル面の塗料の吹き付け仕上げでした。その主なものは下の図のようなリシン吹き付けや吹き付けタイルと呼ばれるものでした。色モルタル掻き落としもよく用いられたました。 色のついたモルタルを塗り、少し乾いてから角棒などで掻き落とす方法で、塗装とは一味違った感じがします。
| | | @ | A | B | リシン吹き付け | 吹き付けタイル | 色モルタル書き落し |
出典:@Aはエスケー化研、Bは左官業協同組合連合会
モルタル塗り外壁とサイディングんpどちらが外壁にとって良いのか。 その判断は、建売住宅では自由に選択できません。したがって悩むことはないのですが、注文建築であれば、どちらにするか迷うところです。
モルタル塗りは仕上げに自由が利くということが最大の利点でしょう。上でも述べたように自由な塗りの仕上げのバリエーションが選べますし、一部にタイルを貼ることも可能です。
それに比べれば、サイディングは、工場の生産品であり、多くの中から選択することが出来ますが、その一部を自由に変更することは、不可能ではありませんが、コストがかかりお勧めできません。
|
|