| 表題は「壁紙(クロス)としていますが、それについて書く前に、壁装材料について述べる必要があります。なぜなら、壁紙(クロス)は数多い壁仕上げの材料である壁装材料の内の一種だからです。
壁装材料とは、字のごとく建物の壁仕上の材料のことです。外部壁仕上げも含めてもいいのですが、主に建物内部の壁仕上げ材を指します。
今ではネットの用語辞典ですら一般的に、壁装材料=壁紙(壁クロス)と捉えられていることが多いようですが、その解釈は正しくありません。
壁装材料にはもっと多様な仕上げがあります。例えば石張り、レンガ貼り、化粧モルタル塗り、珪藻土塗り壁、砂壁、タイル貼り壁、天然木張り壁、ペンキ仕上のペンキ、プリント化粧合板、化粧鋼板などが主な例です。これらもれっきとした壁装材料です。
| | 石張りの例 | タイル貼りの例 |
| | 珪藻土塗りの例 | 板張り(腰)の例 |
しかし、『一般社団法人 日本壁装協会』という協会があり、その協会では壁装材=壁紙をうたっていますが、それは誤解を生じさせているのではないかと懸念されます。
しかしながら、現在の日本の建物の内部の仕上げの殆どといえる程、壁紙(クロス)が多用されている現実がある以上、ここではそれ以外の仕上げは別の機会に譲り、壁紙(クロス)を紹介していきたいと思います。
ここで、かいつまんで壁紙の利用の歴史に触れておきます。下記の記事(緑色の文字部分)はウィキペディア(Wikipedia)からの抜粋です。壁紙(クロス)の歴史については、諸説がありますが、文献でもその発祥の地が中国であるとするのは多数です。
『壁紙が発祥した国は中国である。明代には家屋の内部の壁面に紙を貼る習慣があったとされる。その頃、中国を訪れた宣教師によってヨーロッパに伝わった。ヴィクトリア朝のころ、ウィリアム・モリスのアーツ・アンド・クラフツ運動の中で、唐草文様などが印刷された壁紙が考案され世界中に広まった。壁紙は印刷で大量生産されることから、安価な室内装飾であることだけでなく、保温性などに優れていることが普及の理由である。』
なお、かつては、フランスのアルザス地方は、パリと共に壁紙(クロス)の一大生産地でした。現在そのアルザス地方に壁紙博物館があり、16世紀からヨーロッパで発展した13万点にも及ぶ壁紙(クロス)が所蔵されているそうで、中国からヨーロッパに伝わり、中国より発展した様子を伺わせます。
さて、紙を加工する文化は中国から日本にも伝わりましたが、わが国では屏風、襖、障子などの装飾材として発達しました。壁面に張られたことが分かっているものは17世紀の茶室の腰張り(塗り仕上げの表面の砂などが落ちないように腰壁に貼った和紙)として現存しています。
| | 左の図のように、寝殿造りの住宅の部屋の区画はすべて引違の衾(襖)となっており、衾や屏風には、中国風の画題に代わって、「やまと絵」が描かれるようになります。
また、「からかみ」と呼ばれる「きら刷り」の文様唐紙を表に張った障子も登場してきました。これは中国渡来の文様を刷った唐紙を国産化したのもで、この文様紙を張った障子を「からかみ障子」と呼んでいます。 | 鎌倉時代の公家屋敷 |
下の図は京都市にある二条城の二の丸御殿大広間にある衾(襖)絵。襖でない部分(中央あたり)は「貼付壁(はりつけかべ)」と呼ばれるものです。この壁から衾(襖)部分に及ぶ壮大な松が描かれています。なお、貼付壁は土塗り壁以前の壁の技法のひとつで、壁を紙で張り、四分一(しぶいち)と言われる材を黒塗りにして、押さえたものです。
この紙を壁に貼る技法も中国から伝わった壁紙(クロス)を模したものであろうかと思われます。
| 二条城二の丸御殿大広間 |
画像出典 石張り:アドバン 珪藻土:LOHAS STUDIO 板張り(腰):リショップナビ
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