| 前ページでクラックの発生に対処する二つの方法の道筋を上げました。
このページ以降では前ページの内の一つ目の『A クラックが発生しても、障害に至らないようにする』→『クラックを集中発生させる』概略を解説していきます。
その前に、クラックの発生を極力押さえるためには、建物の計画の段階で、建築物の意匠・構造・設備を含めた総合的な検討が必要ですので、此処で少し触れておきたいとおもいます。
構造設計にあたっては、建物の規模、形状、地盤の状況に応じて、伸縮目地をとって、構造体を分割するなどのクラック対策をブロックに分けて対応することが望ましい。例えば、階数があり、一辺が長い建物では、エキスパンションジョイントを設けて、分割することが好ましいのですが、意匠上においては、不自然さが出たり、コスト増の観点からも、対応に苦慮するところです。
クラックを減らす基本事項(建物の計画段階における) | @ | 伸縮目地を確実に30-60m毎に設ける。 | A | 収縮帯(後打ち部分)を設けて施工 | B | 壁と周囲の柱・梁などを絶縁する(スリットをいれる) | C | 膨張コンクリートなどの特殊なコンクリートの使用 | D | 外壁にプレストレスを導入 |
ここに列挙したものに、外壁の誘発目地は含まれていません。これは、施工の段階で考慮すべき問題と捉えるべきだからです。なぜなら、見栄えや納まりが関係してくるからです。
これから解説していく時々で、伸縮目地と誘発目地が出てくることがあります。ここで、両者の違いをここで明確にしておきましょう。
伸縮目地と誘発目地の基本的な違いは伸縮目地は構造体が完全に、5-15p程度完全に断絶しています。躯体全体をそれだけの隙間を設けているのです。したがって、エキスパンションジョイントで断絶部分を繋ぎます。建物が階数もあり一方方向に長い建物では、基本的に30-60m毎に伸縮目地を設ける必要があります。ただし、基礎部分はこれを設けません。
誘発目地は構造体が断絶せず、鉄筋はそのままでコンクリートの部分のみに目地を入れるものです。次のページから誘発目地について考察します。誘発目地はコンクリート壁の外側だけでなく、内側の壁にも同じ位置に入れます。
外壁仕上げがタイル張りの場合、要所に設けるべき目地も伸縮目地と言います。この目地は、コンクリートにタイルを貼る場合は、コンクリートの誘発目地位置と一致している必要があります。逆に言えば、コンクリートの躯体を作る前に必要目地を考えたタイル割り付けを行い、これに合わせてコンクリートの躯体に目地を入れるということです。
なお、コンクリートの躯体には目地を入れず、タイル張り部分だけに伸縮目地を独自に増やしても何ら問題はありません。
伸縮目地によく似た形状に「スリット」があります。確かにスリットは壁の柱や梁などから断絶していますが、それでは壁を繋ぎ止められないため、一部の鉄筋は残されています。したがって、これも誘発目地の一つと考えて良いでしょう。
エキスパンションジョイントは 細長い建物やL型建物などで、建物の地震時の変形などに追随できるようにした接合部のことです。この部分の構造体は完全に二つに断絶しています(上記開設の伸縮目地参照)。
そのままでは、建物が利用ができないためカバーをかけます。このカバーも地震時には稼働して、揺れに追随出来るようにするため完全に固定されてはいません。
エキスパンションジョイントは、異質の壁仕上げであることが多く、意匠上の見掛けを悪くするなどから嫌われる原因となっています。
| 上の図は2016年4月14日の熊本地震によるマンションの被害の状況です。エキスパンションジョイントを設けていなかったことが原因でこのような被害が出ました。本来ならこの建物はL型をした建物ですのでLの曲がり部分(赤い矢印部分)にL型をしたエキスパンションジョイントを全階に渡って入れるべきでした。
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画像出典:日テレニュース 画像に筆者が矢印を加筆しました。
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